いろいろな縁に恵まれて多くの中国プロジェクトに携わらせて頂いています。日本で当たり前のことがなかなか実現できなかったりもしますが、日本ではできない経験も多くしています。変化の激しい中国で日々勉強しながら、質の高い建築を中国らしく実現する道を探りたいと思います。
【設計手順】
中国では以下3つの設計段階があり、それぞれに対して申請(日本の確認申請と同等)が必要です。申請は必ず地元の設計事務所(設計院と呼ぶ)が発行した図面及び書類でなければなりません。
1)方案設計
日本の基本計画にあたります。図面としては建築一般図(配置図・平面図・立面図・断面図)程度で、他にパースや設計説明を添えます。
海外の設計事務所が独自で作成可能です。ただし、申請の際には、図面データを地元の設計院が加工することになります。
2)初歩設計(総体設計)
日本の基本設計にあたります。図面としては建築一般図の他に構造、給排水衛生、空調換気、電気設備の図面一式が必要です。
その他にパース、設計説明、設計概要、仕上表や機器リストを添えます。
この段階から、地元設計院との本格協働となります。作図作業としては建築図のみ海外事務所が作成し、それ以外は地元設計院に作図してもらうのが効率的ではないかと思います。
3)施工図設計
日本の建築確認申請レベルの設計です。
初歩設計をもとに基本的に全ての図面を設計院に作成してもらいます。この図面で入札及び施工まで行うのですが、日本の感覚からずると図面枚数がかなり少ないです。詳細については標準詳細図を当てはめるのが主で、矩計図や平面詳細図を描くといった習慣はありません。設計院の実力によりますが、大切な収まりについては日本側でフォローする必要があります。
【設計監理】
工事監理は第三者機関として監理公司が行いますが、設計者が現場に来て監理する習慣がありません。
監理公司が行うのはあくまで図面通りに施工されているかの確認で、現場で発生する様々な問題に対する総合的な判断は期待できません。施工段階でも設計者が積極的に関わることが重要だという認識を持ってもらう努力が必要だと思います。
【施工体制】
日本ではほとんどの工事でゼネコンに一括発注します。中国でも最近は一括発注が主流になっているようですが、分離発注するケースも多くあります。その場合CM(コンストラクション・マネジメント)機能が必要ですが、建築主自身がCM業務を行うのが一般的です。分離発注でない場合も含めて中国では現場で施主の果たす役割がかなり大きいです。
中国の現場では事前の各業者間の調整やとりあい検討が不十分だと感じます。一般的に現場で施工図を作成することもありません。各施工業者が自分たちの施工しやすいように工事を進めてしまい、規定の天井高さが確保できない、思いもよらない場所に配管が露出してしまうといったようなことを度々経験しました。また、日本のような精緻な工程管理もあまり期待できません。
海外で仕事をすると改めて日本のゼネコンが極めて優秀だと感じさせられます。日本のゼネコンの施工管理者のレベルは、品質管理・工程管理・安全管理全ての面で世界でもずば抜けて高いのではないでしょうか。
日本のゼネコン出身の建設コンサルタントに協力してもらうのも一つの良い方法かもしれません。
【内装】
中国では建築(躯体)工事と内装工事は全く別物という意識が一般的です。設計に関しても同様です。
内装を含めた設計図書を提出したにも関わらず、「内装設計者選定の審査員をしてくれ」と施主に頼まれがっくりしたこともあります。
ホテルや商業施設だけでなくマンション、事務所や工場に至るまでスケルトン引渡しというのが普通です。問題点としては、建築の内部と外部のデザインの一貫性がとれない、設計者や施工者が仕上げを考慮しないことなどがあります。きれいに収まらないだけでなく、階段の上りはじめと下りはじめの蹴上寸法が他とずれるということも起きてしまいます。これは避難時に転倒の危険性があり何とかしたいところです。
【構造】
コストの問題から中国では高層ビルでもRC造でつくることが一般的です。現在は状況が変わっていますが、元々は鉄骨材料の値段が高いが、人件費の割合が高いRC造は日本と比べてかなり安く施工できることが理由だと思います。設計者、施工者ともに鉄骨造に慣れている技術者は少ないと思われます。鉄骨造の建物を建設する場合は、業者選定を慎重に行った方が良いかもしれません。ただ、技術向上と人件費高騰により今後少しずつ状況が変わると思います。
また、中国の構造設計者は、何でもラーメン形式で解く傾向があります。ラーメン以外の構造形式とする場合、日本の構造設計者に協力してもらった方が良いかもしれません。
【得意・不得意】
現場状況に合わせて臨機応変に複雑な形状を実現させる施工はとても上手です。微妙な形状のガラスを設置する際、ベニヤにて全て現場型どりを行っていました。コンクリートなどの曲面加工なども抵抗なく施工してしまいます。
逆に真っ直ぐな壁を高精度で施工する、石やタイルをきれいに割り付けるといったことは難しかったりします。概して施工図や製作図を作成して事前検討が必要な工事は苦手なようです。
【中国の設計者】
2012年にプリツカー賞を受賞した王澍(ワン・シュー)氏をはじめとした建築家は、世界でもトップレベルです。個人的には王澍さんの他に四川省の建築家刘家琨(リゥ・ジアクン)さんが好きです。
ただ、平均的な設計者を比較すると日本の方が中国の設計者よりレベルが高いと感じます。理由は需給バランスのせいではないかと想像します。建設需要が高い中国では、まだ淘汰が進んでいないのかもしれません。これは施工者に関しても言えることです。最近の不況でこの状況も変わるかもしれません。
また、中国では設計者が現場を監理する習慣がないこと、内装が別発注になることなどから、詳細納まりに関する意識や知識が低い設計者もまだ多いと思います。
しかしながら、明らかにここ2-30年で中国人設計者のレベルが向上しています。それは圧倒的な経験値の差だと思います。中国では若い設計者が膨大な量の仕事をこなしています。
【雨漏り】
日本と比べると雨仕舞や結露に対する意識が低いため、防水に関して設計時、施工時ともに注意する必要があります。
シールが切れたら雨水が浸入してしまう収まりをよく目にします。万一雨水が浸入した場合の排水経路といったことも考慮しないケースが多いようです。また、電気や設備工事で考えなしに防水層を突き破るといったことも発生します。
ただ、最近は一般消費者が雨漏りなどの欠陥に敏感になってきているようで、ディベロッパー等の意識が大きく変わってきています。