生産施設の建設プロジェクトで特に大切なことは下記3点
1)機能
2)コスト
3)スケジュール
上記を満たした上で、働くひとにとって快適で美しい建築を目指します
【機能】
工場が他の建築と最も違うのは、そこが生産の現場であるということ。
工場建築は、生産するモノ、生産方法、企業の考え方によって千差万別です。そこで我々はまず既存工場の観察を徹底的に行います。「科学的管理法」で生産の現場に革命を起こしたフレデリック W.テイラーもまず生産現場の徹底的な観察から研究をスタートしています。
同時に生産技術者とのコミュニケーションを何度も行って製品、生産ラインや生産設備等の理解に努めます。この2つの作業を行って初めて設計のスタートラインに立てたことになります。
計画に際しては、プロジェクトごとに異なる条件を整理してモノの流れと人の流れの最適化を目指します。エネルギーの効率化も重要な視点です。生産現場の要望が基本になりますが、要望をそのまま形にすれば良いわけではないのが難しいところです。ある社長の「倉庫が広いと現場は頭を使わなくなって在庫が増えるだけだ」という言葉がずっと記憶に残っています。
あくまでも生産のための施設なので、少しでも生産の効率化に貢献できればと考えています。
【コスト】
生産現場が目指すのは、品質の良い製品を低コストかつ短期間でつくることだと思います。そのために工場建物自体の建設コストを抑えることも最重要課題です。
コストに最も影響するのは建物規模。メンテナンススペースを考慮した上で無駄な空間を削ぎ落した建物設計を行います。そのためには前述した生産ラインや生産設備、そして各作業がどのように行われるかの理解が欠かせません。
工場建物はビルなどと比較して建設費に対する躯体工事費の割合が高いのが特徴です。そこで経済的なスパンや架構形式・基礎形式を選択することが重要です。搬出残土量を抑えることもコスト削減に繋がります。
法規的には、防火区画、耐火被覆、排煙設備の設定の仕方がコストに影響します。
また、電気のキュービクルの設置位置など合理的なインフラ計画も重要な視点です。
【スケジュール】
生産開始して初めて利益を生み出す工場建築にとってスケジュールが大事なのは言うまでもありません。建設プロジェクトでは色々な工程が複雑に関係します。地盤調査、建物設計、役所事前協議、確認申請、見積・契約、本体工事以外にも多くのケースで、敷地内の解体・撤去、インフラ盛替え、材料手配、生産設備の設計・生産・据付なども考慮する必要があります。
◆工場建築史
フランスの建築家・建築理論家ジャック・フランソワ・ブロンデル(1705-1774)は「工場は単純かつ堅牢でなければならない」と述べている。
<セーブル磁器工場(1753)>
全長130m・4階建、新しいスケールと宮殿風様式をもっていた
<マーシャル・ベニョン&ベイジズ製粉工場(1796)>
初めての鉄骨造、外壁は耐力壁
<ムニエ・チョコレート工場(1871)>
鉄骨ブレース構造、外壁は煉瓦のカーテンウォール
<トゥールコアンの紡績工場(1895)>
フランソワ・アンネビク設計、RC造で窓の大きい近代工場建築の原型
<パッカード工場10号棟(1905)>
アルバート・カーン設計、RC造32フィートの大スパンで、大きな窓から自然光が工場内にもたらす
<ハイランドパーク工場(1908)>
アルバート・カーン設計、世界初の大量生産車「T型フォード」の製造を実現させた工場
<AEGタービン工場(1910)>
ペーター・ベーレンス設計、歴史主義から近代建築に転換する過程でその媒介をなした
<ファグス靴工場(1911-13)>
ヴァルター・グロピウス&アドルフ・マイヤー設計、ガラスのカーテンウォールにより明るく快適な労働環境を実現
<ファン・ネレ煙草工場(1925-31)>
J・A・ブリンクマン(ミヒル・ブリンクマン)&L.C.ファン・デル・フルーフト(マルト・スタム)設計、機能主義の偉大な成果。ガラスのカーテンウォールが明るく快適な労働環境の実現と同時に内部の機械の美を表現
技術の進歩により、工場建築はスパンを飛ばした大空間を獲得し、壁を構造的役割から解放したカーテンウォール建築が登場する。これは明るく快適な労働環境を実現。更に機能を追求してモノとヒトの動きから空間が構成されようになる。現代では、より建築と生産設備の一体化が進むと同時に、フレキシビリティと環境性の視点が重視されるようになる。